「日本一、世界一」の称号について思うこと

こんにちは。ピュアリオ歯科・矯正歯科の湊です。
最近全国ニュースでマウスピース矯正クリニックに関する詐欺事件などが多数報道されました。

世の中の歯並びでお悩みの患者様が、矯正治療で類似の被害に遭われる確率を最大限低下させたいという視点で考察した記事となります。

出典:Yahoo!ニュース
「マウスピース矯正」患者が集団提訴、健康被害の訴え続出 「実質0円」で拡大、多額ローン抱えたまま診療所が突如閉鎖

https://news.yahoo.co.jp/articles/d79d9967e65cc15c2164198d38b0b5b8fff6cb6e

出典:Yahoo!ニュース
被害患者2661名、理事長が逮捕されていた「あーす新宿歯科」が破産

https://news.yahoo.co.jp/articles/d79d9967e65cc15c2164198d38b0b5b8fff6cb6e

何が「日本一、世界一」??

該当するクリニックで共通する最初の目につく謳い文句が、「日本一、世界一」のインビザラインレッドダイヤモンドドクターが在籍とのアピールです。

昨今の厳しい医療広告規制を掻い潜り、謳われた「日本一、世界一」とは?皆様は、実際何が「日本一、世界一」なのか、その事実をご存知でしょうか?

先ず、これらのクリニックが詐欺で刑事事件となり、経営破綻しクリニック自体が無くなり、膨大な数の患者様に実質的な被害が生じた共通の仕組みの概要をざっくりと整理すると、

極端な低価格、または実質無料の謳い文句で魅力的。
「日本一、世界一」のレッドダイヤモンド称号を毎年維持する契約数(称号が1年更新であるため)を得るために、持続可能な経営利益より大幅に低価格または実質無料を謳い契約を取る(患者様にはもっともらしい低価格の理由をカウンセリング時に伝える)。

→数年のうちに破綻。

→急遽クリニックが閉院。

→さも事件と無関係であるかのように該当インビザラインドクターは全く別法人のクリニックで勤務開始。
(該当ドクターは被害に遭われた患者様の治療を完了せずとも、レッドダイヤモンドの名前はインビザライン社との契約数のみの個人アカウントでの称号なので20○○年に何年連続レッドダイヤモンドドクターでしたなどと再び集客、カウンセリング、セミナー等で使えてしまう・・・。)

→被害に遭った患者様はどうなる??

という流れで患者様には大きな皺寄せ、数年通った挙げ句に、適切な治療ですらなく健康被害が生じたり、別クリニックで新規にお金を払い治療する結果になっていますので、今回の事件から、類似の被害に遭わないようにするために、以下の2点を肝に命じておきましょう。

1、過激な謳い文句の誤認に注意

「日本一、世界一」のレッドダイヤモンドドクターについて。

「日本一、世界一」に対して誤認することなく、事実の内容として患者様が認識されていれば全く問題は無いと思います。事実ですので。では、レッドダイヤモンドの「日本一、世界一」の「事実」は以下のどの内容でしょうか?

患者様の視点で「日本一、世界一」がこうであって欲しい「解釈」を代弁するならば、

①マウスピース矯正の治療技術レベル?
②良好な治療結果が出た患者様の、治療完了数?
③このクリニックはいいなと思って、患者が大切なご家族やご友人を紹介して契約した症例数?

いずれもレッドダイヤモンドの称号の「事実」としてNOです。

インビザラインのドクターステータスは、インビザライン社への「発注数」に応じたインビザライン社独自のランク。これが、事実です。レッドダイヤモンドであれば、年間1000人以上の発注数をインビザライン社に行った。それ以上でもそれ以下でもない、集客→契約に至ったおおよその「契約数」を患者様は把握できます。

しかし、話は逸れますが、他の記事でも書いたようにマウスピース矯正はまだ新しい、最新の矯正治療方法です。人気の治療で日本でも現在約12000人ものドクターがインビザラインを導入していますが、そもそもまだ年間10症例しか経験していないですというようなクリニックが大多数なのも事実です。経験が少ないということはドクターにとっても患者様にとっても大きなリスクとなりますので、「契約数」の多さは1つの参考にするべき指標かと思います。

話を戻しますと、新しい治療であるということは、必然的に「治療の契約数」と「良好な治療完了数」とは大きく乖離が生じます。ダイヤモンドドクター=「治療の契約数」の多さをアピールできるクリニックであっても、「良好な治療完了数」とは全く相関性がありません。

突如閉院した該当クリニックで治療を契約してしまい、困られた患者様から当院にも多数ご相談がありましたが、その乖離内容は驚くべきものでした。レッドダイヤモンドドクターの称号で「日本一、世界一のインビザラインドクター」などと「治療技術」や「良好な治療完了数」とは全く無縁の「日本一、世界一」を患者様に誤解を与え得る内容で集客→カウンセリングし、信用して契約したのに、適切な治療ではなかった挙げ句、沢山の方に健康被害、治療難民を出す結果で患者様を裏切る一連の行為は、同じ業界のドクターとしては非常に腹立たしい事件です。

2、極端な低価格に注意

「安かろう、悪かろう」などという言葉がありますが、全国ニュースとなったクリニックでは、無料モニターや相場より極端に安い治療費で集客、カウンセリングが行われていました。

患者様の立場からすると、治療費は安ければ安いに越したことはないと思います。しかし、患者様が期待されているのは、医療機関である以上、全ての方に、継続的に安心して治療が受けられ、適切かつ良好な治療結果があって当然との期待に応えられる、適正最安価格だと思います。

治療費を安くできる根拠として、インビザライン社による、ドクターのステータスに応じたインビザラインの技工料金の割引制度が存在し、該当クリニックではそれを低価格の理由としてカウンセリングされたとセカンドオピニオンで聞きましたが、経営困難となり突如閉院した原因が以下のように考えられます。

当院でもブラックダイヤモンドステータスによる技工料金割引がインビザライン社よりありますので、価格は合理的最低価格に設定を試みておりますが、無料モニター詐欺(結局無料ではない)や経営維持が数値的に困難なラインを下回るであろうと考えられる極端な低価格を提示することは、当然ですが、非常にハイリスクです。最高ランクのレッドダイヤモンドとなると、45%の大きな技工料金割引が受けられますが、それは初期の本体技工料金のみです。クリニック経営において、数年単位で継続的に治療期間が必要な矯正治療を、適正に、良好に完了されるまでにかかる大きな費用は、インビザライン社への初期の技工料金だけでしょうか?答えは言うまでもなくNOです。

毎年ダイヤモンドクラスの新規患者様を迎え入れ、医療的に良好な結果を出し続けながら、材料費、人件費、その他設備費、技術の向上のための様々な費用を考慮し、継続可能な経営を想定した場合の最低価格ボーダーはおおよその検討ができていますが、ダイヤモンドクラス以上のインビザライン社の技工料金割引を利用しても、本格矯正が70万円以下の極端な低価格単価となると、矯正市場自体の価格崩壊による長期的質の低下は元より、そのクリニック自体の存続にリスクが生じる可能性があります。

経営には、継続的に適切な人や設備、技術に投資することは勿論、ダイヤモンドクラス認定数以上の新規患者数が毎年増え続けることを想定して、全ての患者様が1年で治療が良好に完了するなどということはあり得ませんので、必要マンパワーや経費は増加を続けますので(ステータス割引も最初のインビザライン本体価格のみで、その後の継続的に派生する料金は割引対象外で発生しますし、毎年必ず様々な料金等に値上げが生じている事実があります)、長期的に予測してみてあるボーダーを切った価格設定をすると、経営自体が5年を待たずして困難になる可能性が考えられます。そもそも詐欺で逮捕は問題外ですが、ドクターが逮捕されたからと言って大きな法人格のクリニックがいきなり残された患者様を診られず閉院というのは疑問で、経営的に見るとそのボーダーを計算できなかった故の低価格による「負債」に気付き、突如閉院した原因となったのではないかと考察できます。

最後に

最後に、これは一ドクターとしての個人的な感想ですが、全国ニュースを見るに、これまでの歯科医師人生で沢山のドクターを見てきましたが、仲の良い患者様と個人的に実情を踏まえて得意分野に対して自信を覗かせるならともかく、無差別に「日本一、世界一」などと自分で公言できる性質のドクターは、経営の未来予測能力等以前に、率直に怖いと思ってしまいます。

契約したクリニックが、突如閉院になって、期間も費用も技術も、全然「日本一、世界一」ではなかったなと後悔される方が、今後二度と生じない業界であることを切に願います。

これから矯正治療をお考えの方に何か1つでもご参考になればと思い記事を今後も書きますので、ご一読下されば幸いです。